【高校では教えてくれない裏ワザ】

高校では教えてくれない裏ワザ[2]:Euler の公式(1)

「世界一美しい公式」として有名な Euler(オイラー)の公式をご存知の方は多いのではないでしょうか?しかし、高校生の段階でこの公式の有用性を十分に理解されている方は、どのくらいいらしゃるでしょうか?

今回の高校の先生は教えてくれない裏ワザでは、この Euler の公式のご利益を味わって頂こうと思います。
1回では十分に説明出来ないと思われますので(1)としています。
ご好評を頂きましたら、(2), (3) と続けようと思います。

さて、Euler の公式は次のようなものです。
\begin{eqnarray}
{\rm e}^{i x} &=& \cos x + i \sin x
\end{eqnarray}
ここで、$x = \pi$ とした式
\begin{eqnarray}
{\rm e}^{i \pi} + 1 &=& 0
\end{eqnarray}
を Euler の公式という場合もありますが、ここでは先の一般的な変数 $x$ の関数としての Euler の公式と呼ぶことにします。

さて、早速ですが、次の不定積分を求める場合には、どのように計算されるでしょうか?

[問]

次の不定積分を求めよ。
\begin{eqnarray}
\int {\rm e}^{x} \cos x {\rm d} x
\end{eqnarray}

[通常の答]

通常、この種の積分は部分積分を繰り返すことによって、答えが得られます。すなわち
\begin{eqnarray}
I_1 &=& \int {\rm e}^{x} \cos x {\rm d} x \\
&=& {\rm e}^{x} \cos x – \int {\rm e}^{x} (- \sin x) {\rm d} x \\
&=& {\rm e}^{x} \cos x + {\rm e}^{x} \sin x – \int {\rm e}^{x} \cos x {\rm d} x \\
I_1 &=& {\rm e}^{x}\left(\cos x + \sin x\right) – I_1 \\
I_1 &=& \frac{1}{2} {\rm e}^{x} \left(\cos x + \sin x \right)
\end{eqnarray}
となります。ここで積分定数は省略しました。
部分積分を2回繰り返すことによって、最初の積分の形 $I_1$ がもう一度出てくるところがポイントです。
ここで、$I_1$ の下の添字の $1$ は $\cos x$ が1乗であることを示しています。

ある意味、鮮やかな解法なのですが、例えば $I_2, I_3, I_4, \cdots$ となっていくと、同様の計算をするは、かなり大変になって来ることが容易に想像出来ますね。$I_2$ なら三角関数の倍角の公式、$I_3$ なら三倍角の公式を使えば出来そうですが、$I_4, I_5, \cdots$ となると、四倍角、五倍角の公式を使うんだろうと想像付きますが、実際に行うとなると、ちょっと大変そうです。

[裏ワザ的解法]

そこで Euler の公式の登場です。Euler の公式を使って、$\cos x, \sin x$ を表すと
\begin{eqnarray}
\cos x &=& \frac{{\rm e}^{i x} + {\rm e}^{- i x}}{2} \\
\sin x &=& \frac{{\rm e}^{i x} – {\rm e}^{- i x}}{2}
\end{eqnarray}
となることが分かります。これを使って、$I_1$ を計算してみましょう。
\begin{eqnarray}
I_1 &=& \int {\rm e}^{x} \cos x {\rm d} x \\
&=& \int {\rm e}^{x} \frac{{\rm e}^{i x} + {\rm e}^{- i x}}{2} {\rm d} x \\
&=& \frac{1}{2} \int \left({\rm e}^{(1 + i) x} + {\rm e}^{(1 – i) x}\right) {\rm d} x
\end{eqnarray}
ここで、少し論理的な飛躍をしてみます。
\begin{eqnarray}
\int {\rm e}^{\alpha x} {\rm d} x &=& \frac{{\rm e}^{\alpha x}}{\alpha}
\end{eqnarray}
は $\alpha$ が実数であれば、高校の範囲で証明されていますね。(ここでも、積分定数は省略しています。)

この事実は要するに、$\alpha$ が実数の時に
\begin{eqnarray}
\frac{\rm d}{{\rm d} x} {\rm e}^{\alpha x} &=& \alpha {\rm e}^{\alpha x}
\end{eqnarray}
ということから演繹されています。積分は微分の逆演算ということですね。

では、この $\alpha$ が複素数の時には、この式は成り立つのでしょうか?
例えば、$\alpha = i$ を考えてみましょう。その時には
\begin{eqnarray}
{\rm e}^{i x} &=& \cos x + i \sin x
\end{eqnarray}
という Euler の公式の微分を考えることになります。

左辺において、今、先の事実が成り立つと仮定すると
\begin{eqnarray}
\frac{\rm d}{{\rm d} x} {\rm e}^{i x} &=& i {\rm e}^{i x}
\end{eqnarray}
が成り立つことになります。この右辺に、Euler の公式を使うと
\begin{eqnarray}
\frac{\rm d}{{\rm d} x} {\rm e}^{i x} &=& i \left(\cos x + i \sin x\right) \\
&=& – \sin x + i \cos x
\end{eqnarray}
が導かれます。

一方で、先の式の右辺を $x$ で微分してみましょう。そうすると
\begin{eqnarray}
\frac{\rm d}{{\rm d} x} \left(\cos x + i \sin x\right) &=&
– \sin x + i \cos x
\end{eqnarray}
となり、先の結果に矛盾しません!

どうやら、$\alpha$ が複素数でも成り立つ関係であることが想像されます。
実際に、複素数でも成り立つことを証明することが出来ます。(厳密な証明には、変数を複素数に拡張した「複素関数論」という大学で習う学問が必要です。)
微分の関係が成り立つということは、その逆変換である積分の関係も成り立ちます。

ここでは、この事実を認めて計算を進めてみましょう。
\begin{eqnarray}
I_1 &=& \frac{1}{2} \int \left({\rm e}^{(1 + i) x} + {\rm e}^{(1 – i) x}\right) {\rm d} x \\
&=& \frac{1}{2} \left(\frac{{\rm e}^{(1 + i) x}}{1 + i} + \frac{{\rm e}^{(1 – i) x}}{1 – i}\right) \\
&=& \frac{1}{4} \left((1 – i) {\rm e}^{(1 + i) x} + (1 + i) {\rm e}^{(1 – i) x}\right) \\
&=& \frac{1}{4} {\rm e}^{x} \left(({\rm e}^{i x} + {\rm e}^{- i x}) – i ({\rm e}^{i x} – {\rm e}^{- i x})\right) \\
&=& \frac{1}{2} {\rm e}^{x} \left(\cos x + \sin x\right)
\end{eqnarray}
見事に通常の答を再現してくれました!

でも、正直 $I_1$ ではあまりご利益がなさそうですね。では、このやり方で $I_3$ を計算してみましょう。
\begin{eqnarray}
I_3 &=& \int {\rm e}^{x} \cos^3 x {\rm d} x \\
&=& \int {\rm e}^{x} \left(\frac{{\rm e}^{i x} + {\rm e}^{- i x}}{2}\right)^3 {\rm d} x \\
&=& \frac{1}{8} \int {\rm e}^x \left({\rm e}^{3 i x} + 3 {\rm e}^{2 i x} {\rm e}^{- i x} + 3 {\rm e}^{i x} {\rm e}^{- 2 i x} + {\rm e}^{- 3 i x}\right) {\rm d} x \\
&=& \frac{1}{8} \int {\rm e}^x \left({\rm e}^{3 i x} + 3 {\rm e}^{i x} + 3 {\rm e}^{- i x} + {\rm e}^{- 3 i x}\right) {\rm d} x \\
&=& \frac{1}{8} \int \left({\rm e}^{(1 + 3 i) x} + 3 {\rm e}^{(1 + i) x} + 3 {\rm e}^{(1 – i) x} + {\rm e}^{(1 – 3 i) x}\right) {\rm d} x \\
&=& \frac{1}{8} \left(\frac{{\rm e}^{(1 + 3 i) x}}{1 + 3 i} + \frac{{\rm e}^{(1 – 3 i) x}}{1 – 3 i} +
3 \frac{{\rm e}^{(1 + i) x}}{1 + i} + 3 \frac{{\rm e}^{(1 – i) x}}{1 – i}\right) \\
&=& \frac{1}{8} \left(\frac{(1 – 3 i) {\rm e}^{(1 + 3 i) x}}{10} + \frac{(1 + 3 i) {\rm e}^{(1 – 3 i) x}}{10} +
3 \frac{(1 – i) {\rm e}^{(1 + i) x}}{2} + 3 \frac{(1 + i) {\rm e}^{(1 – i) x}}{2}\right) \\
&=& \frac{{\rm e}^{x}}{8} \left(\frac{{\rm e}^{3 i x} + {\rm e}^{- 3 i x}}{10} – 3 i \frac{{\rm e}^{3 i x} – {\rm e}^{- 3 i x}}{10} + 3 \frac{{\rm e}^{i x} + {\rm e}^{- i x}}{2} – 3 i \frac{{\rm e}^{i x} – {\rm e}^{- i x}}{2} \right) \\
&=& \frac{{\rm e}^{x}}{8} \left(\frac{\cos 3x}{5} + 3 \frac{\sin 3 x}{5} + 3 \cos x + 3 \sin x \right) \\
&=& \frac{{\rm e}^{x}}{40} \left(\cos 3x + 3 \sin 3x + 15 \cos x + 15 \sin x\right)
\end{eqnarray}
と求めることが出来ました。

計算の途中で、自然に3倍角の公式が出ていることに注意して下さい。(このことは、また別の機会に説明します。)
実際に、計算はかなり厄介ですが、これを $x$ で微分すると、被積分関数に戻ります!

という訳で、複素数が係数にある ${\rm e}^{\alpha x}$ に関する微分と積分を実数と同じルールに従うと仮定すると、非常に上手くいくことが分かりました。

このまま、試験の解答に書くことは避けたほうが良いですが、検算には十分に使えると思います。

三角関数を含んだ複雑そうな関数を積分する必要があるときには、Euler の公式を使ってみて下さい。答えの目途が立つので、正解への道筋が見えるかも知れません。

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